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幕の間の出来事40: 加守田章二の手記より
 


加守田章二(1933−1983)は作家として活動を始めた1960年代からその早すぎる死をむかえた1983年まで、常に斬新で力強い陶芸作品を発表し続けました。陶芸という手段を通して加守田章二が追究し続けたもののヒントが下記の手記からもうかがえる気がします。

 

・・・ブルガリアからトルコまで私達は汽車にのりました。その時私は色があさぐろく、私よりもものすごく毛もくじゃらなアラブ系の男6人が居る車室で一夜を明かすことになりました。彼らは親切な人らしく私にタバコ等をすすめたりした。

彼らの話し合っている言葉は私には全然わかりませんが、とつとつと話す話しぶりや、その落ちつきのある力強い態度が大変気に入りました。彼らを見ながら私は頭の中で豊かな人間像を描いていました。人がいやがる淋しさ、空しさ、退屈感を堂々と体で受けとめること、そしてそのことが真に人間として生きる意欲、能力の原動力となる大切な事であること。特に今の便利な時代に住む日本人はその大切なことを便利なもの楽しいものでごまかしてしまうことに時間を費やしている。豊かな人間像を頭に描いている時、おんぼろ汽車はどこまでもえんえんと続く丘陵地帯を走っていた。今回の旅行中最も強く旅の実感を感じ得たうれしい時間でした・・・

加守田章二 手記「ヨーロッパ旅行雑感」1973年より

 

 
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