夏の間森の中を歩き樹の高さや、幹の太さ、落葉や草をわけて根もとをしらべた。数ヶ所で何本かの樹を選び出し、それと関係づけて、又、関係なく数本の線を想像してみた。自分の視線はこのときも前方への水平方向と、下への垂直方向であった。水平方向の視線は樹や崖につきあたった。下方に向う視線はすぐに地表に到着し、その先は地下に吸収される。自分は地表に立っているにもかかわらず、地表面はあいまいである。樹と想像する線と大気とあいまいな地表面によって、空間は別の性格を持ちはじめる。それは又、空間の周囲を区切る境界をさがすことでもあった。境界の手がかりはこの森の細部に散在している。樹木は現実のものであったが、その生長をずっと見続けることは出来なかった。想像する線はいつまでも想像からぬけ出すことはなかったが、様々な具体的な素材や方向が付け加わっていった。この空間は水分を保存し、植物は一種の振動であった。
――若林奮「7月の冷却と加熱」(彌生画廊 1986年)より抜粋
この夏、当館で展覧会の予定はございません。秋に加守田章二展を予定しておりますので、近くなりましたらお知らせ致します。
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