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幕の間の出来事20: 追悼文
 


山先生の御自宅に年に数回ご挨拶に伺うようになってから随分と長い年月が経ったように思います。今年の7月下旬にお目にかかった時、その幾度もの訪問の中で初めて、物理的な会話が成立しませんでした。約1時間ほどの対面のことははっきりとした文章にはなりませんが、言葉にはならない会話がそこにはありました。お別れをする際にニッコリとされた先生の笑顔を私は生涯忘れることはないでしょう。そこには永遠を掴んだ人の偉大さと深い愛情が満ち溢れていました。言葉にならない会話、それは先生の作品と対峙した時に感じるものと同じ種類のものかもしれません。先生の訃報を聞き、絶望に打ちひしがれながらたどり着いた先生の作品の前で私はそう確信したのです。そして、人間とは何かということを追究してきた山先生の力強さ、深さ、美しさが作品にはこめられているのだと改めて感じました。

初めて先生にお目にかかったのは遠い昔のことですが、山本丘人先生・杉山寧先生・東山魁夷先生等とともに山先生を父がお食事にお招きしていた日々をありありと思い出すことが出来ます。その当時、日本画壇は情熱に燃え希望に満ちていました。その後、その勢いを支えていた巨匠が次々と亡くなり、日本画壇が低迷していくかと思われた時、山先生が注いだ画を描くことへの情熱が日本画の消滅を食い止めたといっても過言ではないと思います。先生の制作に対する真摯な態度は生涯変わることなく、むしろ年々深化していくようでした。数年前、ヴァイオリニストの五嶋みどりさんとお話されていた時の生き生きとしたお顔はとても86歳を越えている方とは思えぬ輝きを放っていました。

最後に私にむけてくださった笑顔には更に研ぎ澄まされた輝きがあったように思います。改めてまた先生の作品の前に立った時、そこには同じ輝きがありました。偉大な人は不滅であることを知り、深い悲しみの中に少しの安堵を見出した気がします。

 

 
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