この度小川美術館に於きまして、今年の9月14日にご逝去されました��山辰雄先生を偲び、��山辰雄展を開催いたします。生涯、画を描き続けることで｢人間とは何か｣ということを追究し続けた��山先生が1993年に発表されました《聖家族》シリーズを中心に約50点を展示いたします。

��山先生は1912年6月26日、大分県に生まれました。

“僕が生まれたのは大分市の街中だったんですが、子供の時に海のすぐ側に引っ越したんです。
庭からそのまま海岸に出られるような家で、僕はそこで大きくなりました。
（中略）
満天の星と言いたくなるような時がありましたね。沖を見ると、水平線の先まで真っ暗なんだけどその際まで星が輝いている。
気持ちが良かったですねえ。こういう感覚は、言葉で表現するには歯痒いものがありますね。身体が受け止めて、頭ではなくて身体に染みついた記憶のようなものかもしれませんね。“

（��山辰雄インタビュー　2006年　図録｢��山辰雄展｣資生堂アートハウス　2007年より）

18歳の時に上京。1931年東京美術学校（現・東京藝術大学）日本画科に主席で入学し、1936年主席で卒業。以後、数々の展覧会に作品を発表し、制作を続けていきました。

“その頃はよく(山本)丘人と付き合っていましてね、丘人は僕より12歳年上の先輩でしたけれど、日本画滅亡論っていうのが盛んに言われた時期があったんです。戦後まもなくの頃ですよ。坂道を丘人と二人でぶらぶら歩いていた時でしたね、｢困った｣って丘人が言うんですよ。｢日本画が滅亡するって言われているけれど、確かに滅亡しそうだ｣って。僕はその時｢滅亡したっていいんじゃないの｣って、丘人にくってかかりましたよ。｢滅亡するって分かっていても、それでも、白旗を掲げて絵を描いていればいいんじゃないか｣って。（中略）
この頃から僕は一生絵を描いて生きていくんだと、思っていたんだと思いますよ。“

（��山辰雄インタビュー　2007年　図録｢��山辰雄展｣資生堂アートハウス　2007年より）

日本画家の最高峰に立ち、日本画を支えていらした��山先生の作品には、絵を描くことを心から愛し、そして常に人間というものと真に向かい合っていた先生の強く広く深い思いが輝いて見えるようです。

“今でも、画家仲間と話をしていると、我々のやっていることは｢何か｣ということが話題になります。しかしその答えを理論づけることはできません。五十歳になったら、何とか言葉に直せるかと思っていました。しかし、まだ答えは出ません。六十歳になったら、七十歳になったら、とその期限を延ばしても、未だに答えが見つからないんです。
ただ、言葉にはできないにせよ意識はあるんですよ。美校（東京美術学校）を卒業する時、僕には何を求めたいかという、はっきりしたものを持っていたんですよ。今でもそれは変わらないし、それに向かって歩いてきたつもりなんですけれど、｢確言｣とでもいうのか、パチとあてはまる言葉、辞書にあるような言葉が見つかるといいんですけどね。もし、その｢何か｣がはっきりとした言葉になった日にはね、ゆっくりと死んで行こうかと思っているんです。“